Clinical Question:虚血性心疾患の予防の重要性
著名人が虚血性心疾患で突然亡くなったニュースは、多くの人々に衝撃を与えました。
この出来事は、虚血性心疾患の深刻さとその予防の重要性を再認識させるものです。
虚血性心疾患は冠動脈における動脈硬化が進行し、血管の内腔が狭くなり、心筋への血流が不足することで発生します。症状は血栓が冠動脈内で形成され、突然現れることもあれば、慢性的に胸部に違和感を覚える場合もあります。心筋の壊死を伴う「急性心筋梗塞」や可逆的な血流不足による「安定型狭心症」など、様々な病態があるのです。
加えて、今回のように突然死や心原性ショックなどの致死的な病態で発症することもあります。
虚血性心疾患は、前兆や自覚症状が現れにくい時もあり、日々の予防的な対策が重要なのです。
●虚血性心疾患の主なリスク要因
高血圧、脂質異常症(高コレステロール血症)、糖尿病、喫煙、肥満、そしてストレスや運動不足が虚血性心疾患の主要なリスク要因です。これらのリスク要因が重なることで、冠動脈に動脈硬化が進行しやすくなります。
特に現代社会においては、食生活の乱れや運動不足、喫煙、過剰なストレスがこれらのリスクを助長しています。これらのリスク要因は、日常生活の改善によって十分にコントロールすることが可能です。
●一次予防:日常生活でできること
一次予防とは、疾患が発症する前にリスクを軽減するための予防策です。これには以下のような日常的な予防行動が含まれます。
1. バランスの取れた食生活
食事は心臓や血管の健康に直結しています。特に飽和脂肪酸やトランス脂肪酸を多く含む食事(牛肉や豚肉などの脂身、加工食品、揚げ物など)は動脈硬化を進行させるリスクが高いと言われているので、食べ過ぎには注意です。野菜、果物、魚、ナッツ類、そしてオリーブオイルを多く含む地中海式の食事が、冠動脈疾患のリスクを低減することが多くの研究で示されています。また、食物繊維の多い食品を摂取することも、コレステロール値を低下させるため効果的です。(詳細は以下コラムをご覧ください:/yumino/2024/08/002420.html)
2. 適度な運動
運動不足は肥満や高血圧のリスクを高め、心血管系に負担をかけます。週に150分程度の中等度の有酸素運動が推奨されており、ウォーキングやジョギング、サイクリングなどが適しています。また、筋力トレーニングも併せて実施することで、全身の血流が改善し、血管の機能改善に繋がります。(詳細は以下コラムをご覧ください: /yumino/2024/07/002403.html)
3. 禁煙
喫煙は心血管疾患の最大のリスク要因の一つです。タバコに含まれる化学物質は血管を傷つけ、動脈硬化を進行させます。禁煙することで、心筋梗塞のリスクは急速に低下し、長期的には非喫煙者と同じレベルに戻ることが可能です。
4. ストレス管理と十分な睡眠
慢性的なストレスや睡眠不足は、血圧や血糖値を悪化させ、心血管系に負担をかけます。日常生活の中でリラクゼーション法や趣味を取り入れること、また質の高い睡眠を確保することが、心臓病予防においても非常に重要です。
●二次予防:疾患を抱える患者さんへの対応
一方で、すでに冠動脈疾患を指摘されている患者には、再発を防ぐための二次予防が重要です。薬物療法としては、LDLコレステロールを低下させて血管を保護するスタチンや、血栓形成を予防する抗血小板薬が主に使用され、虚血性心疾患の再発を抑える役割を果たします。また、定期的なかかりつけ医のフォローアップと、患者さん自身が生活習慣の改善を継続することも欠かせません。
特に虚血性心疾患を有する患者さんにとって、運動や食生活の見直し、禁煙、そして体重管理は再発防止のカギとなります。多くの臨床研究が示すように、二次予防を徹底することで心血管イベントのリスクを大幅に減少させることが可能なことは分かっています。
虚血性心疾患は誰にでも起こりうる疾患ですが、適切な予防行動を日々の生活に取り入れることで、そのリスクを大幅に低減することが可能です。今回の悲しいニュースをきっかけに、自分自身や家族の健康を守るために、生活習慣の改善に積極的に取り組んでいきましょう。
医療法人社団ゆみの
循環器予防医療部 部長
土肥 智貴