Clinical Question:予防医療の重要性と今後の展望
私は病院勤務時代に、心筋梗塞や大動脈解離などの心血管疾患を発症した患者さんの診療に従事してきました。その現場で強く感じたのは、予防医療が心血管疾患の発症を抑える上で極めて重要な役割を果たしているということです。現在では、高血圧、脂質異常症、糖尿病といった生活習慣病が心血管疾患の主要なリスク要因であることが広く知られており、私たち医療従事者には、発症を予防するための早期介入と長期的な健康管理が求められています。これまでの予防医療の取り組みとしては、定期的な健診による生活習慣病の早期発見や、食事および運動指導を含む生活習慣改善の指導が挙げられます。しかしながら、これらのアプローチが十分に行き届いているとは言い難い状況であるのも現実です。
今回、当法人の勉強会にて亀田ファミリークリニック館山副院長である家庭医の岩間秀幸先生をお招きし、「診療の構造」についてのご講演を賜りました。予防医療の重要性から患者さんとの面接技法に至るまで幅広くご講義いただきました。亀田ファミリークリニックにおいては、がん検診や予防接種、生活習慣病管理といった包括的な予防医療が提供されており、これは他の医療機関にとっても模範となる取り組みだと感じました。また、予防医療において、患者との信頼関係が何よりも重要であることも再認識しました。その一助として、患者中心の面接技法であるBATHE法(Background, Affect, Troubles, Handling, Empathy)についても解説いただきました。この手法は、患者との短時間の面接においても、患者の生活背景や感情、心配事を的確に把握し、共感を示すことで信頼関係を築くために有効です。特に、心血管疾患のリスクを持つ患者には、心理的要因が身体の健康に大きく影響を及ぼすため、患者の感情や生活状況を深く理解することが長期的な健康維持に不可欠です。BATHE法は診療の効率化だけでなく、患者の不安を軽減し、より前向きな行動変容を促す効果が期待されます。
今後の予防医療の展望として、デジタルヘルスやリモートモニタリング技術の積極的な導入が挙げられると思います。これにより、遠隔地に住む患者や忙しいオフィスワーカーが定期的な健康管理を受けやすくなり、継続的なモニタリングも可能となります。心電図や血圧、体重といったバイタルデータをリアルタイムで確認し、異常が見られた際には即座に医療介入が行える体制を整えることで、より精度の高い予防アクションから行動変容までが期待されます。また、個別化医療のさらなる進展も必要です。ゲノム解析やAIを活用したビッグデータ解析により、個人の遺伝的リスクやライフスタイルに応じたカスタマイズされた予防プログラムの提供が現実のものとなるでしょう。これにより、予防の精度が飛躍的に向上し、より多くの人々が心血管疾患を未然に防ぐことができると期待されています。さらに、地域社会全体を巻き込んだ予防医療の推進も重要です。職場での健康診断やフィットネスプログラム、学校における健康教育など、幅広い世代に向けた予防医療の啓発が必要です。これからの予防医療には技術革新と個別化が鍵を握ると考えています。医師としては、患者のリスク要因を的確に把握し早期の介入を行うことに加え、テクノロジーやデータを活用した新たな予防手法を積極的に取り入れていく必要があります。その際、患者に寄り添う姿勢を忘れてはなりません。
当法人は、訪問および外来診療を通じて地域医療を推進しております。幅広い専門医がスタッフとして従事している中で、総合医療の重要性を再認識するとともに、地域におけるかかりつけ機能をさらに強化してまいります。また、患者さんとの信頼関係構築を基盤に、新たな予防医療の推進に取り組んでいきます。岩間先生のお話を伺い、その思いをさらに強めました。ありがとうございました。
医療法人社団ゆみの
循環器予防医療部 部長
土肥 智貴