Clinical Question:心不全パンデミックを見据えて高血圧診療について改めて考える

YUMINO education program2024年05月17日

社会の高齢化に伴って、心不全患者が世界中で増加しており、心不全パンデミックと呼ばれる事態になっている。我が国においても65歳以上の人口は3000万人を超えており、仮にそれに米国の65歳以上の心不全発症率を当てはめて考えた場合、今後数十年にわたって、年間約30万人以上の高齢者が我が国で新規に心不全を発症するということが推計されている。


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慢性心不全はSTAGE A→STAGE B→STAGE C→STAGE Dと不可逆的に進行していくことから、慢性心不全患者を増加させないようにするためには、STAGE Aの段階からの早期治療介入が重要であると考えられる。

具体的には、心臓に器質的な、あるいは構造的な異常がないSTAGE Aというのは、高血圧症や糖尿病などいわゆる動脈硬化リスクを持った段階ということである。わが国の高血圧有病者は4300万人と推計されていて、そのうちJSH2019ガイドラインで推奨されている治療目標域を達成できている患者は1200万人と言われている(1)。残りの3100万人は将来的に心不全進展のリスクがあるということになる。わが国の高血圧診療の現状としては、先進国の中でも日本の管理状況は良くない(2)ということが指摘されていて、改めてわが国の高血圧診療について見直していく必要があると考えられる。

それゆえ、高血圧症に対して、厳密な血圧コントロールが求められる。しかしながら、降圧療法を行う上では、血圧コントロールに難渋する場合がある。その血圧コントロール不良の要因としては、クリニカルイナーシャ、服薬コンプライアンス不良、高血圧を悪化させる物質の摂取などが挙げられる。クリニカルイナーシャとは、治療目標が達成されていないのに、原因精査されていなかったり、治療が適切に強化されていない状態のことである。具体的には、血圧コントロール不十分にもかかわらず、治療が強化されていない、コントロール不良の原因として二次性高血圧の精査がされていないということになる。

心不全患者を少しでも増やさないためにも、日々の高血圧診療において血圧コントロールに難渋した場合には、クリニカルイナーシャを意識して二次性高血圧の精査や治療強化を検討していくことが重要と考えられる。



のぞみハートクリニック
岡田 健一郎



参考文献:1.高血圧治療ガイドライン2019 2.Lancet. 2019;394:639-651.

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