Clinical Question:心不全と腎不全と貧血と~新たな貧血治療薬への期待~
心不全と腎不全と貧血と
~新たな貧血治療薬への期待~
貧血が心不全の予後や再入院に影響することは以前から報告されています1)。また適正なヘモグロビン(Hb)レベルを維持することで腎保護効果が示されています2)。
しかし急性・慢性心不全診療ガイドラインをみても心不全に合併する貧血に対する治療として鉄剤注射や赤血球造血刺激因子(ESA)製剤による症状やイベント抑制効果の報告はありますが、対象や方法、目標値など一定ではなく確立されたものはありません。一方で慢性腎不全患者において目標Hbレベルを高く設定すると心血管リスクが上昇することが報告されており(CHOIR試験3):目標ヘモグロビン値を13.5g/dLとした場合、11.3g/dLの場合と比べ心血管リスクが上昇)、貧血を改善させればよいというものではないようです。そのためCKDガイドラインでは目標Hb値は11g/dL以上、13g/dL未満が推奨されています4)。しかし実際にはESA製剤ではこの目標値を達成できない症例も経験されます。
2019年のノーベル生理学・医学賞は低酸素誘導因子-プロリン水酸化酵素(hypoxia inducible factor-prolyl hydroxylase:HIF-PH)による細胞の低酸素応答の仕組みの解明に対して贈られました(図)。この機序から開発されたHIF-PH阻害薬は現在は5剤が上市されており腎性貧血に対して処方可能となっています。HIFを介したエリスロポエチン産生増加、また鉄利用効率の上昇により赤血球産生の増加が期待される薬剤です。ESA製剤によって貧血が改善しない症例や鉄利用障害が示唆される症例にはHIF-PH阻害薬への変更を考慮してもよいかもしれません。エビデンスの乏しい心不全に併存する貧血治療に対して今後期待されています。
ちなみにSGLT2阻害薬にもエリスロポエチン濃度を上昇させ貧血を改善させる効果が示されており5)、心不全の予後改善に寄与しているのかもしれません。
のぞみハートクリニック
小出雅雄
<引用文献>
1.Circ J 2015; 79: 1984-1993
2.Ther Apher Dial 2015;19:457‒ 65.
3.N Engl J Med. 2006; 355: 2085-98.
4.エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2018
5.Circulation. 2020;141:704-707