Clinical Question:住居荒廃(ごみ屋敷)の住人が抱える問題と対応

YUMINO education program2021年12月17日

●ただ部屋が汚い と ごみ屋敷の兆候 の違いの見分け方

ソファやテーブルなど普段主に生活を行う場所に、服や紙類などなんらかのものが山積みになって使いにくい状態が5-10年続く。さらに浴室やトイレ、家具など生活に必要な設備が物であふれ、使えなくなると「危険信号」と判断したほうがよい。

→「危険信号」の手前で外部からなんらかの介入ができればごみ屋敷は防げる

 

●住居を放っておくリスク

病気の原因となる恐れ ・火災が起こる可能性 ・近隣住民からの苦情や関係の悪化

 

●関与する可能性のある病気

  • うつ病 :

いつも物事をネガティブに捉えてしまい、生きる気力を失う。生活に関する能力や意欲が低下するため、セルフ・ネグレクト(後述)と呼ばれる状態になる恐れがある。

  • 統合失調症 :

症状として、ゴミやものを溜め込んでしまい、ゴミを片付ける能力が低下する症状が現れることがある。統合失調症の症状は人によって大きく異なり、全員がゴミ屋敷を作るわけではない。

しかし、生活を支える家族が近くにいない、持病が悪化することで生活スキルが低下するなど、統合失調症もゴミ屋敷のきっかけとなる要素はある。

  • 認知症 :

物事を判断する力(失認)が大きく落ちてしまう。こうした失認には、対象を正しく認知・認識できないことが例としてあげられている。そのため、ゴミをゴミだと認識できない、ゴミ出しの日を忘れるなどによりゴミ屋敷化するケースが考えられる。

  • ためこみ症 :

3つの特徴 物を大量に集める ・ 整理整頓ができない ・ 捨てられない

要因は不明だが遺伝的な要因が大きいとされる。遺伝的なかかりやすさを持った人が、幼少期に両親の離婚や死別、虐待など心理的にショックな経験をすると、発症リスクが高まるとされる。

2014年3月時点で人口の約2~6%がためこみ症だと推定されている。ためこみ症の多くは青年期に始まり、適切な治療がなければ収集が止まらなくなるとされる。

症状は以下の通り。

ものを捨てるのが非常に苦痛だと感じる。

集めたものは不要なものと本人が認識しておらず、大切なものなので捨てられないという拒否が見られるケースがある。どれだけ価値が無いと思えるものであっても、ものを取っておかなければいけない、という意識にとらわれている。(収集物に強い執着心)
→ためこみ症の人と話す時は「ものを捨てるのが辛いんだ」ということを理解する必要がある。

ものを溜めておくことに価値がある

執着する対象は不規則であり、弁当の空き箱や使い古した服、汚れたコップなどに執着するなど、他の人から「それはゴミだよ」と指摘されるものも含まれる。ためこみ症の人がゴミだと思われるものを集めてしまう理由は、価値のあるものを保存しておくこと ではなく、ものを溜めておくことを目的だと考えられているためとされる。

  • セルフネグレクト :

本人自身の基本ニーズ(衛生面、服飾面、食事など)をかえりみない行為のこと。具体的には、食事を取ったり、お風呂に入ったり、片付けることもできなくなるという可能性もある。

セルフネグレクトが起こる要因: 
①社会からの孤立:一人暮らしで相談相手がいない
②判断力の低下:ADHD、認知障害、ためこみ症、統合失調症、うつ病、パーソナリティ障害
③身体能力の低下:老化や病気など
④金銭的に困窮:非正規雇用による低賃金など、不衛生な住環境になるという要素があり、ゴミ屋敷化するきっかけとなり得る。

  • 発達障害 (ADHD、自閉スペクトラム症) :

ADHD :多動性、衝動性、不注意などの症状を伴う発達障害の1つ。研究により、発達障害に含まれるADHDに、ためこみ症が合併する可能性があることがわかっている。

自閉スペクトラム症 :ADHD同様、ためこみ症(癖)が合併する可能性がある。また、愛着とこだわりを持つ傾向があり、不要なものを判断できないことも懸念されている。

 

●治療

まずは適切な専門医(精神科)の受診、カウンセリングが必須

「病気」と認められるだけで治療法がなくても本人が楽になる場合がある。家族や周囲から責められ、整理整頓できないダメ人間だと自己評価の低い人にとって、病気という診断は逃げ道になる。まずは受診が必要。ただし、ため込み症については特段の治療法はない。

  • 病気や性格のせいで 「ごみを片付ける能力がないひと」 の場合

→精神科での治療に加えて、「地域・家族からの孤立を防ぐこと」で改善させることができる。

  • 「堆積物をごみと認識していない、むしろ価値のあるものと認識しているひと」の場合

→なかなか治療は困難なことが多い。本人が納得しない状態でのがらくたの強制撤去は最悪の手段。「自身の大切なもの」を破壊されたショックで住人が急死することさえもあるので注意が必要である。

専門医による丁寧なカウンセリング(認知行動療法)を行っていく必要がある。

 

のぞみハートクリニック

萬谷薫

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