急性・慢性心不全診療ガイドライン:慢性心不全治療の歴史 vol.8
今回は、慢性心不全治療の歴史を取り上げてみます。
心不全の歴史をみてみると、古代エジプト、ギリシャ、インドにおいて、心不全の記述が存在しています。心不全がdropsy(水腫)、つまり体液貯留の病態と考えられていたため、心不全治療として、過剰に増えた体液を取り除くための寫血などが行われていました。16世紀になりパラケルススによって心不全に対する無機水銀の利尿薬治療が報告されましたが、無機水銀は毒性が強く、実際の使用は困難であったようです。また、17世紀の医学者ウィリアム・ハーヴェーが血液循環説を発表し、心不全は心臓が原因である病態と理解されはじめ、1785年にウィリアム・ウィザリングが民間療法で最も効果があるのではないかと注目したジギタリスの臨床使用を報告しています。その後しばらくは、利尿剤とジギタリスが心不全治療の主流でした。1920年代ごろから、利尿剤の開発がすすみ、1950年から1960年代にかけて、サイアザイド系利尿薬、スピロノラクトン、フロセミドなどが開発されています。そんな中、1975年にワーグスタインが、利尿薬とジギタリスを投与しても救うことのできない重症心不全患者に対して、交感神経系を遮断する作用をもつβ遮断薬が効果あったことを報告し、交感神経系やレニン・アンギオテンシン系の神経体液性因子を抑制する薬剤が心不全治療薬として次第に脚光をあびるようになりました。1980年代から1990年代に、いくつもの大規模臨床試験でアンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬やβ遮断薬の予後を改善効果が証明されました。さらに、2000年前後には、2つの薬剤で心不全患者へのアルドステロン拮抗薬の予後改善効果も示されています。
そして、現在、心不全患者の予後を改善する薬剤として脚光を浴びてきているのが、ナトリウム・グルコース共輸送体2(SGLT2)阻害薬や ARNI > といった薬剤になるわけです。
次回は、そのSGLT2阻害薬を取り上げてみたいと考えています。
参考
- J Fam Pract. 2018 Jan;67(1):18-26. Review.
- Lancet. 2017 Oct 28;390(10106):1981-1995. Review.
弓野 大