接触軸受型VAD(HeartMateⅡ)と非接触軸受型VAD(HeartMate3)
今回は、NEJMからの人工心臓に関する研究報告をご紹介します。
重症心不全患者には、年齢や全身状態など厳密な適応審査(※)が行われ、心臓移植待機の登録を行うことができます。しかしながら、本邦では、臓器ドナー不足などの理由からもすぐに心臓移植を受けることができず、多くの重症心不全患者では、心臓移植までの橋渡しとして、補助人工心臓(VAD)が使われています。体内植え込み型のVADでは、第一世代の拍動流型、第二世代の定常流型(軸流ポンプと遠心ポンプ)、第三世代の定常流型と開発がすすんでいます。
第二世代のVADは、内部のローター(羽根)の軸がポンプ内部のどこかに接触する構造であることから、血栓性や耐久性の問題がありました。HeartMateⅡはこのタイプにあたります。第三世代のVADは、その問題を解決すべくローターを非接触型にしたもので、HeartMate3は磁気によりローターを浮上させています。これによって軸受部の摩擦がなく血液損傷が少なくなり、血栓形成や摩擦が軽減されます。血栓の出現は、脳梗塞の原因となりますし、またポンプ故障の原因となり再手術等の対応が必要となります。VADは重症心不全患者において、その予後延長が証明された機械で、現在も第二世代、第三世代ともに使用されており、この血栓については多くの懸念がなされています。第三世代VADとしては、すでに、DuraHeart(テルモ)やHVAD(HeartWare)があります。以前はHeratMateⅡが世界で最も多く植え込まれていたVADでしたが、第三世代のVADがでてきて、少しずつそのシェアが変わってきています。このような流れから、セントジュードメディカル社の新商品である第三世代のHeartMate3が第二世代のHeartMateⅡと比較されています。
第二世代VADのHeartMateⅡと第三世代VADのHeartMate3を治療抵抗性の重症心不全の患者に多施設非盲検のランダム化比較試験を行っています。主要エンドポイントは、6か月間に脳卒中を起こさずに、またVAD植え込み再手術とならなずに生存できたかどうかとなります。294人の患者のうち、152人がHeartMate3に、142人がHeartMateⅡに割り付けられました。結果として6か月でHeartMate3で131人(86.2%)、HeartMateⅡで109人(76.8%)でこれらのイベントを起こさずに経過していました。死亡や重度の脳卒中の出現率は2群で有意差はありませんでした。しかし、ポンプの不具合による再手術についてはHeartMate3の方がより少ないという結果でした。ポンプ血栓については、HeartMate3では認められず、HeartMateⅡでは14人(10.1%)で認められました。つまり、HeartMateⅡは、HeartMate3と比較しても死亡率には有意な差はありませんが、HeartMate3はHeartMateⅡよりも血栓症が少なく、再手術も少ないという結果でした。
VADが、重症心不全患者にとって生命予後延長効果が期待できることは証明されています。しかし、脳梗塞や再手術といった血栓症の問題、またそれを防ぐための抗凝固による出血という合併症についてはいまだ克服されておりません。 今回の研究でも死亡原因として多かったのは、感染による敗血症、脳卒中、心不全の増悪となっています。
心臓が悪い人は誰でも人工心臓を植え込める、そのような時代になるためには、対象患者の選択、そして植え込み型人工心臓の発展、そして植え込んだ後にこれらの合併症をおこしうる人を社会全体としてどのように在宅で管理すれば良いかを考えていく必要があります。
(※)日本循環器学会ホームページ心臓移植レシピエント適応条件 >
参考文献
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Mehra MR et al. N Engl J Med 2017;376:440-450