経カテーテル大動脈弁留置術(TAVI)の適応
高齢者の増加とともに、心臓病のなかでも大動脈弁狭窄症(AS)をもつ患者が増加しています。重症ASに対する治療は外科的に大動脈弁置換術が一般的でしたが、約30%は外科的手術ができない症例がいます。いまはそのような手術にリスクを伴う症例に、経カテーテルに大動脈弁留置術を行うことができます。 今回は、経カテーテル大動脈弁留置術(TAVI)について、European heart journalからの最新の研究報告から考えていきたいと思います。
TAVIの4つの研究を組み合わせ、合計3806人を検討したメタアナリシスからです。使用された弁は、エドワーズライフサイエンス社のEdwards SAPIEN (PARTNER 1A)とEdwards SAPIEN XT (PARTNER 2A)および、メドトロニック社のCore Valve (US CoreValve High Risk、NOTION)です。エドワーズ社のものは、balloon-expandableで、メドトロニック社のものは、self-expandableです。一次エンドポイントは、2年時の全死亡。 結果、ハイリスクの症候性重症大動脈弁狭窄症患者において、TAVIは外科的大動脈弁置換術と比較し13%の死亡リスクを減少する可能性を認めました。 尚、TAVIおよび外科的大動脈弁置換術の合併症として、脳血管障害や心筋梗塞の頻度は同等の結果でした。この結果は、TAVIの際に用いるデバイスの種類(balloon-expandableかself-expandableか)や背景因子とは関連性がなく、女性であることと、経大腿アプローチであることが、予後良好の要因となりました。 さらに副次エンドポイントの結果からは、TAVI群では、血管合併症やペースメーカー留置、弁周囲逆流が有意に多かったが、外科的大動脈弁置換術群では、腎不全、新規の心房細動発生、大出血といった合併症が有意に多かったという結果でした。このように、TAVI施行、2年後の時点では、TAVI群は、外科的手術群と比較して予後が良いという結果でした。
一方で、TAVIを行っても有益でない症例があります。TAVIを行った後の予後不良因子としては、心臓因子と心臓外因子があります。心臓因子として、左室駆出率の低下、弁口面積が小さいが圧格差が低い(low flow low gradient)、肺高血圧、重度僧房弁閉鎖不全症などがあります。 心臓外因子として、重度の慢性肺疾患と慢性腎臓病、フレイル(虚弱)があります。 TAVIのリスク評価としては、現在、STS scoreやEuro scoreが広く用いられていますが、これらは、心臓外科手術後の死亡リスクを予測するために使用されるものであり、高齢者で外科手術ハイリスクの症例の特徴(例えばフレイルティなど)が加味されたリスク評価が必要と考えます。 TAVIは、現在は高齢者や併存疾患などで、外科的手術にはハイリスクな症例へ行っています。患者さんの大動脈弁狭窄症の重症度だけではなく、身体活動度、生活の質など、その人の全体を考えたTAVIの適応を検討し、そして治療介入を行うことが、これから多くの人がTAVI治療による恩恵をうけることになるでしょう。
Appendix
尚、2016年8月に開催されたJTVT (日本経カテーテル心臓弁治療学会)において、日本のTAVI registryの結果が報告されています。本邦においては、リスクの低い患者へ適応が広がっているということはないようであり、症例を見極めた治療が行われているようでした。 また海外では透析患者へもTAVIは可能ですが、日本国内では現在適応がありません。これまでの海外のデータからは、透析症例へのTAVIは予後不良因子です。今後、日本では透析患者へのTAVIの治験がはじまります。透析患者のASでは、非常に治療に難渋することがあるのは確かですが、そこにTAVIを用いることで、一時的に症状改善があったとしても最終的な予後は変わらず、逆に合併症に苦しむ可能性もあります。ただし、日本では、海外よりもTAVIの成績が良いこと(30日死亡率1−2%程度)や、透析管理も海外よりはるかにすぐれていることから、海外とはまた違う結果が出ることも十分考えられます。その意味で、これらの結果にも今後も注目していきたいところです。
参考文献
- Siontis GC, et al. Eur Heart J. 2016; 37: 3503-3512.
-
Puri R, et al. Eur Heart J. 2016; 37: 2217-25.
- 2014 AHA/ACC guideline for the management of patients with valvular heart disease: executive summary, J Am Coll Cardiol. 2014; 63: 2438-88.
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