Clinical Question:岩間秀幸先生 特別講演「外来・在宅で使える相互診療・家庭医療のスキル」
当法人が毎週金曜日に実施しているClinical Question(CQ)の場に亀田総合病院より岩間秀幸先生をお招きし、特別講演を開催しました。
在宅医療の現場で日々感じている葛藤や、家庭医療の実践知に基づいた知見を教示いただき、参加者にとって非常に学びの多い時間となりました。
岩間秀幸先生プロフィール
▶亀田ファミリークリニック館山 副院長/家庭医診療科 部長
▶亀田家庭医総合診療専門研修プログラム プログラムディレクター
▶日本プライマリ・ケア連合学会 プログラム責任者協議会代表
プライマリ・ケア学会でも企業×医療でスターバックス館山店と協働。
岩間先生より「外来・在宅で使える総合診療・家庭医療のスキル」というテーマで、家族の協力がなかなか得られずに治療に難渋したケースを元にして医療倫理の4分割法・家族志向ケアについてお話いただきました。
在宅医療を行っていると、
「遠方の家族が希望して緊急入院が決まった。」
「本人の思いとケアマネの方針が全然一致しない。」
「在宅の問題は医学で解決できないことばかり。」というような場面に直面することが少なくありません。
そこで改めて患者・家族主体の医療を提供することの重要性について家庭医の立場からお話いただきました。
- 医療倫理の4分割法
医療倫理の4分割法をご存じの方は多いかと思いますが、実際に臨床で使ったことのある方はあまりいらっしゃらないのではないでしょうか。
医学的適応、患者の意向、QOL、周囲の状況の4つの視点から考える医療倫理の4分割法ですが、医療従事者はどうしても医学的適応についての議論が多くなりがちです。
ただ、在宅の現場では様々な要因が複雑に絡まっており、一度医療的な視点から離れることも重要であるというお話がありました。
医療倫理の4分割法を用いて多角的に患者を捉え直すことで、実は自分の治療よりも他に優先させたい事があったり、一見筋が通っていないように思えた行動が、個人の今までの価値観や人生が色濃く反映された選択であったりと、医療的な視点だけでは捉えきれない背景があることが示されました。俯瞰した立場で患者を多角的に捉え、レバレッジ・ポイント(小さな力で大きく構造を変えられる介入点)を意識して探すことで医療以外の課題に気づき、その課題から介入することで結果的に適切な医療の提供に繋がることを再認識する機会になりました。
- 家族志向のプライマリ・ケア
在宅医療を考える上で、患者やその家族のライフサイクルは、時に意思決定や本人の健康状態にも大きく影響を与えます。
患者にとって「重要な人たち」という背景のもと実践される家族志向という視点は、在宅において非常に重要な考え方でありました。
キーパーソンのコアな部分や譲れない部分が臨床にも影響を及ぼすケースも多い中、現状を把握するための「家族図」についてもお話いただきました。
家族図には結婚や子供、関係性、病気、現在の課題、感情的な親密さや葛藤などを記載します。時には過去の虐待歴や不倫、離婚等、ここはかなりパーソナルな部分もできる限り記載していきます。家族全体の状況を把握することで、医療的な視点では見えなかった課題が明らかになっていきます。そこに家族のライフサイクルがいまどのような段階なのか、家族を1つのシステムとして捉えるとどう影響しあっているのかを把握することが可能になります。
そうやって患者・家族を捉え直すことで今まで見えてこなかったレバレッジ・ポイントが明らかになることが示されました。
- 実践への示唆:俯瞰的視点の重要性
今回の特別講演では、周囲の環境や家族との関係性を理解した上で患者ニーズを捉えることが非常に重要であるのだと感じました。岩間先生より「臨床がうまくいっていると感じているのは医者だけというケースもある」というお言葉が非常に印象的で、これは医師のみでなく医療従事者全てに通ずることだと考えます。
医療的な視点だけでなく、周囲の環境や家族との関係性を理解した上で患者ニーズを捉えることが、質の高い在宅医療を提供する鍵となるのではないでしょうか。
ゆみのハートクリニック 吉本明子
医療法人社団ゆみの 井梅弘毅