Clinical Question:「ACP、緩和ケア~家族の視点~」
私はゆみのに入職する前、厚生労働省所管の独立行政法人医薬品医療機器総合機構で、
医療機器の審査をしていました。
植え込み型補助人工心臓が初めて心臓移植までのつなぎの役割として承認されたとき、
心臓移植の要件を満たさない方々にもずっと使える役割として承認されたとき、
両方の審査に携わりました。心臓移植という目標がある患者さんと、補助人工心臓とともに
ずっと生きていく患者さんでは、医療機器自体は変わらなくても、審査の内容は異なってきます。
耐久性の面での審査はもちろんですが、年々増えていく合併症などについて、患者さん本人やご家族が意思決定をするにあたり、正確な情報が伝わり、かつ理解できるような体制が整っているか、
その後のバックアップ体制はどうなるのか、など、よりよい医療の提供がなされる体制をどうするか、も審査のポイントになりました。正確な医療知識を理解したうえで、患者さんの意思決定がなされるよう、お手伝いをしたいという思いから、在宅医療に興味を持つようになりました。
実際に、在宅医として勤務させていただくようになると、患者さんの中には、すでに認知機能が低下していて、ご自分の今後を考えにくい 、あるいは今後を考えるのが面倒になっていらっしゃるかたもおられました。ご家族の思いは様々であり、まさにご自身の人生の大切な時であり、お子様やご自身の仕事や生活に全力投球の日々のなかで、お父さんやお母さんは、できれば自分でなんとかしていってもらいたいというお気持ちをお持ちのかたがたも多いように思われました。
ご本人もご家族も当然、病気の経験や正確な知識や経験は少ないので、医療者側の目線とずれていることも多く感じました。
終末期には、約70%の患者さんが意思決定が不可能な状態にあるという報告もあり、よりよいエンド・オブ・ライフ・ケアのためには、事前に病状の認識を確かめて、あらかじめ意思を確認しておけばよいのではないか、ということから今後の治療・療養について患者・家族と医療従事者があらかじめ話し合う自発的なプロセス、ACP(Advance Care Planning)を行うようになりました。
厚労省でも「人生会議してみませんか」(ウェブページはこちら)という内容で、ACPの重要性や、
実際に行う際の考え方ややりかた、をわかりやすく説明する動画や資材を用意して普及につとめています。
私は医者ではありますが、老親の家族としての立場も経験しています。
義父母は二人とも癌で家で亡くなりました。実父は心不全で病院で亡くなりました。
実母は健在ですが、脳出血後片麻痺となり、認知症もすすみ、施設に入所しています。
医療者側なのに、親とACPについて話し合ったことがありません。人生会議といっても、あらたまって話すことは、親のほうから相談されれば、問題ありませんが、子供側から提案する場合、
親がそれなりに若くて健康だと、現実味がなく、理想論で終わりそうです。
より年を取ってくると、面倒がられたり、嫌がられたりしそうというご家族の気持ちはよくわかります。
とはいえ、在宅医療においてはご本人やご家族が、年齢や病状を踏まえ、どのように人生を過ごし、
最期をどのように迎えたいと思っていらっしゃるかを医療者側が理解することが重要です。
そのために最適な医療や治療はなにか、を皆で話し合うことが必要です。ご家族も、ご本人の思いをきちんと受け止めることであらたな発見があるかもしれません。
患者さんの状態が変化していくことで、ご本人やご家族の気持ちも変わります。時間経過が理解を深めたり、ご家族がご本人に寄り添う気持ちの準備に役立つこともあると、自身の経験も踏まえ、感じています。
今回は、私自身が家族側である、という視点で、家族の気持ちや困りごとについて、話をさせていただきました。医療者が、医療者側の困りごとに終始せず、問題解決モードに偏ることなく、患者さんやご家族と「一緒に困る」という経験をともにすることで、患者さんの重荷が少しでもとれたり、一緒によりよいライフ・ケアを行い、それがエンド・オブ・ライフ・ケアにつながることができればと願っています。
ゆみのハートクリニック
方 眞美