Clinical Question:医療現場における倫理的アプローチの手法-患者中心の医療を実現するために-
- 議題
「患者中心の意思決定 Goal-orientedな考え方」
「いつ多職種カンファレンスを行うか?」
「倫理的妥当性の評価」
「臨床倫理4分割表:特に予後予測、終末期の定義、無益性の評価、意思決定能力の評価、
価値観の評価について」
- 患者中心の意思決定 - Goal-orientedな考え方
「80歳台、肺癌末期で予後1-2ヶ月の患者。Living will(事前同意書)で心肺蘇生の希望あり。」のケースをもとに考えます。主治医は心停止時に心肺蘇生が適応外であることを説明しましたが、家族は「心停止時に心肺蘇生をするのは当たり前」と譲りません。このケースでは「個々の行為ではなく、患者の価値観や希望に基づいたケアのゴール設定」が重要とされています。
患者中心の意思決定Goal-orientedな考え方として、患者の価値観と希望に基づいたケアのゴールを設定することの重要です。個々の治療行為よりも、患者と家族との話し合いに基づいたケアの目標設定を重要としています。
- いつ多職種倫理カンファレンスを行うか?
「進行したCOPDで過去に急性増悪を繰り返しており、今回も急性増悪による呼吸不全で挿管管理となった。」ケースをもとに考えます。
医師A「抜管しても再挿管になる確率が高い。」
看護師B「本人の推定意思と異なる治療なのであれば、抜管すべき。」
医師C「抜管して再挿管せずに死亡したら刑事訴追されるのでは」
と、各々の立場から異なる意見を述べており、議論がかみ合わずゴールや治療方針が決定できません。多職種カンファレンスの必要性について、「様々な視点からの情報を整理し、最終的な結論を出す必要がある時や、医療者間の考えに対立が生じる時こそ、多職種カンファレンスを行う良いタイミング」です。
多職種倫理カンファレンスに必要な共通認識として、下記のいずれについて議論しているかを認識しておく必要があります。
・医学的な妥当性
・倫理的な妥当性
・法的な妥当性
- 臨床倫理の4分割表
多職種倫理カンファレンスで用いる手法に、臨床倫理の4分割法があります。具体的には、「予後予測」「終末期の定義」「無益性の評価」「意思決定能力の評価」「価値観の評価」などを考慮することで、医療者間で共有し、患者や家族とともに最適な治療方針を検討することが重要です。
医学的なゴールが達成できない場合(生理学的無益性)、患者が望む生活の質が得られない場合(質的無益性)、治療の効果と負担のバランスが取れない場合(量的無益性)において、治療の継続を見直す必要があります。
- 価値観の理解と尊重
患者の意思を尊重するためには、患者のことを知る必要があります。どのような状態が「死ぬより辛い状況」であるのか、患者がどのような人生を大切にしているのかを理解します。意思決定能力がある場合は、患者が選んだ選択肢が価値観と整合しているかを確認し、意思決定能力がない場合には事前指示書や代理意思決定者を参考にします。また、患者がどの程度までの医療負担を受け入れられるかも考慮することで、患者の尊厳を保つケアが実現されます。
のぞみハートクリニック
西谷 伸吾