Clinical Question:高齢者の孤独・孤立
孤立・孤独は死亡率と直接相関する
1. 高齢者の社会的孤立や孤独が問題となっています。高齢化や核家族化を背景に、単身高齢者では28.8%が3日に1回以下しか会話をしないというデータがあります。この傾向は男性に強く、高齢単身男性の7人に1人は、2週間に1回以下の会話しかしていないと言われています。
2. 人々との繋がりが欠如した「社会的孤立」で29%、「孤独感」で26%、「独居」で32%、それぞれ死亡リスクが高まることがわかり、孤独・孤立と死亡の直接的な相関が明らかになっています。血圧・脈拍数の上昇、コルチゾール(ストレスホルモン)の不適切な上昇、免疫力の低下など、孤独が身体に及ぼすメカニズムも解明されており、孤立・孤独は肥満や喫煙などと同等に死亡リスクの高い「慢性疾患」と捉えられます。
3. そうした背景から、2018年にイギリスのメイ政権で、世界初の「孤独担当大臣」が任命されました。当時発表されたLoneliness strategyでは
- 偏見をなくす →孤独を恥ずかしいことだと思う風潮を減らし話し合う場を作る
- 孤独に対する社会政策作りへの動き→社会的処方という概念の提唱
- エビデンス作り→孤独をどうやって定量評価するか、孤立孤独の実態把握
などを柱において国をあげて取りくみが始まりました。
4. 社会的処方とは、慢性期な孤独を「慢性疾患」と捉え、薬を処方することで患者さんの問題を解決するのではなく、『地域とのつながり』を処方することで問題を解決するというものです。リンクワーカーというトレーニングを受けた専門職の人が、医療機関と地域とを繋ぐ役割をします。
5. 日本でも2021年に世界で2番目に内閣官房に孤独・孤立対策担当室が設置されましたが、コロナ禍の孤立やひきこもり対策がメインとなっており、高齢者の孤独・孤立まではまだまだ既存の仕組みに任されています。
6. 社会的処方が活発に行われているイギリスやオランダを見習う形で、日本の地域のクリニックから草の根的に社会的処方を取り入れる動きが出てきています。高齢化の進行に伴って、医療処置や投薬を必要としない患者も多くなってきており、コミュニティケアの重要性が増しています。今後地域の医療を担う在宅医として、積極的に社会的処方を実践する役割を担っていくことが求められており、できることを模索していきたいと思っています。
ゆみのハートクリニック渋谷
山上文