急性・慢性心不全診療ガイドライン:診断 番外編 vol.6

2019年12月06日

非専門のかかりつけの先生方より、これは心不全? 専門の先生に紹介したほうがいいの? そんな質問を多くいただきます。われわれも作成メンバーとして関わらせていただいた「急性・慢性心不全診療ガイドライン かかりつけ医向けガイダンス」には、そんな質問に回答するべく、心不全チェックリストを作成しています。こちらは、急性・慢性心不全診療ガイドライン にはない、心不全チェックリストを用いたアルゴリズムを取り上げています。

(A)患者への質問票(図1参照)

(B)身体所見

(C)検査(心電図、胸部X線、血中BNPまたはNT-ProBNP)

以上の3つのセクションからなります。

 20191206.jpgのサムネイル画像

  • (A)の1-3にいずれか1つでも「はい」があれば、心不全リスクが高いと判断します。
  • (A)の4-10にいずれか1つでも「はい」があれば、(B)の評価を行ってから、さらに(C)を評価します。
  • (B)は、バイタルサイン(血圧・脈拍・酸素飽和度)、頚静脈怒張、湿性ラ音、心雑音(収縮期・拡張期)、過剰心音(Ⅲ音・Ⅳ音)、肝腫大、下肢浮腫などの診察所見を評価します。
  • (C)は、心電図、胸部X線、血中BNPまたはNT-ProBNPの3つと、可能であれば心エコー図となります。
  • (B)(C)のうち、1つでも異常所見がある場合は、心不全・心臓病疑いで、循環器専門医への紹介を推奨しています。

 

このアルゴリズムで最も注目されるのは、何より心不全チェックリストではないでしょうか?その中でも、質問項目にある自覚症状が我々のお気に入りです。

自覚症状は、心不全診断に重要な項目のひとつです。例えば、歴史的な心不全の診断基準であるフラミンガム研究の心不全診断基準では、自覚症状(夜間発作性呼吸困難と下腿浮腫、労作時呼吸困難)だけも心不全と診断されます。さらに、自覚症状はセルフモニタリンすることができ、心不全増悪の早期発見も可能にします。ただし、その一方で、高齢になり活動量が減ったり、症状に慣れてしまったりして、小さな変化に気づきにくくなり、自覚症状がマスクされることもあります。また、認知機能低下などにより、自覚症状を訴えることが困難になり、自覚症状をモニタリングがうまくできないこともあります。

そのような特徴ある自覚症状ですが、この心不全チェックリストに採用されている自覚症状は、王道の心不全症状でありながら、他覚的評価もできるものが多く採用されているのです。例えば、最近話題の"Bendopnea"(前かがみになると息苦しさがでるという症状)が質問5にあります。これは、呼吸困難という自覚症状でありながら、身体所見でもあります。患者さんが、靴を履こうとしているときに息苦しそうにしているような場合は、まさしく5の質問に該当し、家族や介護者にも評価可能になります。また、質問6は夜間発作性呼吸困難に該当するもので、フラミンガム基準の大基準でもありますが、「夜間に咳が出る。就寝中に横になると息苦しくなり起きていると楽になる。」と具体化することで、家族や介護者も共有しやすくなっているのです。

このチェックリストは、心不全スクリーニングとしての利用だけではなく、すでに心不全で困っている人への増悪予防としても利用できると考えます。更に、ICT利用での自動スコアリング、トリアージシステムの構築を行うことにより、より効率的に早い段階での増悪予防にもつながると考えます。

  

 

弓野 大


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