心不全患者における社会的苦痛について
心不全患者は、身体的苦痛、精神心理的苦痛、社会的苦痛など、癌と同様にこれらへの全人的苦痛への緩和ケアの介入を考える必要があります。
この中で最近、厚生労働省の循環器疾患の患者に対する緩和ケア提供体制のあり方に関するワーキンググループにおいて、「循環器疾患患者における社会的苦痛とその対応」について、当院在宅療養支援室室長である斉藤ソーシャルワーカーが、参考人としての発表の機会があり、これまでの心不全患者の在宅療養支援の経験を報告してきましので、ここにその一部を抜粋します。
心不全患者には、以下の4つの社会的苦痛があると考えます。
1. 介護負担の問題
2. 療養場所の選定の問題
3. 経済的な問題
4. 地域コミュニティーの問題
1.介護負担の問題について
心不全は非がんの慢性疾患であり、予後予測も分かりづらいのが特徴となります。また日常生活そのものが疾病管理となり、介護者にとっては日々の小さな負担が積み重なり大きな負担へと繋がっていきます。そして、介護者自身も老人であることが少なくありません。
問題解決策としては、以下があげられます。
- 訪問看護、リハ、介護従事者の活用と協働した疾病管理
- 介護負担軽減を目的とした医療施設や地域連携の強化
- 在宅医療機関への相談員配置
2.療養場所の選定の問題について
高齢心不全患者は認知機能低下の合併が多く、意思決定が難しい。また自宅・病院・施設のどこを選択しても課題があります。そして患者、家族間などで意見が異なることが多くみられます。
問題解決策としては、以下があげられます。
- 患者の人生の物語やいまの思いを大切にした多職種チームによる意思決定支援
- 長期的な療養施設の体制整備
3.経済的な問題について
繰り返す入院で医療費負担が大きい。また就労が困難となることがあり、所得補償が得られにくいなどが挙げられます。
問題解決策としては、以下があげられます。
- 在宅療養を継続するための社会資源整備とサポート体制の構築
- 長期的な療養生活を支える就労支援
4.地域コミュニティの問題について
心不全に関して癌と違い専門職へ相談できる窓口が少ない。また患者家族が高齢で情報を得る手段が少ない。そして、患者家族会などの場がない、などが挙げられる。
問題解決策としては、以下があげられます。
- 疾病の啓発
- 医療介護従事者向けの心不全教育
- がん相談支援センターのように相談対応できるような心理社会的問題にも対応できる相談員の配置
- 患者の人生や生活の質を高めるため、地域全体で支えるコミュニティーの構築
まとめ
心不全患者は、介護負担や経済的問題等の社会的苦痛を抱えており、個々の状況に応じた支援が必要と考えます。また、療養期間が長い心不全患者は、患者や家族の人生の物語や、いまの思いを踏まえた、意思決定支援が重要となります。そして、在宅療養生活を長期に継続するための支援体制の整備や、医療・介護・福祉で支えるネットワークづくりが必要となります。
当院では、心不全をもつ患者家族のために、住み慣れたところで長く過ごしたいという方への様々な相談を行っております。在宅療養支援室までお気軽に問い合わせください。
参考サイト
- 厚生労働省ホームページ:循環器疾患の患者に対する緩和ケア提供体制のあり方に関するワーキンググループ[閲覧 2018/1/29] http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000191984.html