高齢心不全患者の治療に関するステートメント

2016年10月11日

札幌で行われました日本心不全学会学術集会に参加しました。そのなかで学術集会会期中に、一般社団法人日本心不全学会より「高齢心不全患者の治療に関するステートメント」が公表され、日本心不全学会ホームページhttp://www.asas.or.jp/jhfs/に掲載されました。

当施設のこれまでの高齢者心不全治療への多くの経験から、実地医家の立場より本ステートメント作成に参加しております

ご高齢の心不全患者さんは、生活背景、身体活動度や認知機能、併存疾患の存在など、人によって多種多様です。 一人ひとりの全体像を把握し、その治療方針を、患者さん・ご家族とともに話し合うことができればと思います。

本コラムでは、高齢心不全患者への本ステートメントの概要につき述べさせていただきます。

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特徴

  • 世界で初めての高齢(概ね75歳以上)心不全患者を対象とした治療指針である。
  • 高齢者の特徴である併存症等の臨床評価や社会環境評価が治療方針決定に欠かせないことを明示した。
  • 心不全を進行性の予後不良疾患として捉え、チーム医療を基盤とする緩和・終末期医療を実践する必要性を喚起した。

背景

  • 慢性心不全は様々な心疾患の終末像であり、その罹患者は全国で120万人ともいわれる。がんの罹患者数の100万人を凌駕しているが、国民の認知度は高いとはいえない。年齢とともに罹患率が増加するため、高齢化の進む我が国においては人口が減少に転じる近未来においてもさらに増加が続くと予想される。
  • 高齢者では心臓移植など心不全に対する抜本的治療法が適応とはならず、根治性のない予後不良の疾患である。その経過において、緩解と増悪(入院と退院)を繰り返し、生活の質が損なわれた状態が持続したり、医療資源に大きな負荷を及ぼしたりしている。
  • 心不全を巡る臨床試験の大半は60歳台(平均値)の患者を対象として実施されてきており、患者が集積する後期高齢者(75歳以上)に焦点をあてたガイドラインは国際的にもない。後期高齢者の有する諸問題を前に、従来のガイドラインに基づいた診療はしばしば困難であることへの指摘が患者や医療者から挙がっている。

ステートメントの要旨

  • 高齢者心不全の特徴は、根治が望めない進行性かつ致死性の悪性疾患である。同時に、今後さらに増加するコモン・ディジーズである。
  • 高齢者では心機能の保持された心不全(Heart Failure with Preserved Ejection Fraction; HFpEF)が半数を占め、その薬物治療法は確立していない。
  • 患者の大半が心疾患以外の併存症を有しており、個体差が顕著である。心不全の治療指針の決定には、心不全の機能的・定量的診断とともに、患者の併存症、栄養状態、フレイル、社会生活環境等の評価が必須である。
  • 薬物療法や心臓リハビリテーションなどの治療は非高齢者と同等に有用である。一方、高齢者では安全域が狭く十分な監視を必要とする。
  • 外科的治療や経カテーテル的侵襲的治療を年齢でもって制限する根拠はない。それらの適応は患者の心不全の程度とともに併存症等の臨床評価と社会環境評価に基づく。
  • 高齢心不全患者の円滑な診療には、基幹病院専門医とかかりつけ医、および多職種チームによる管理システムの構築が必要である。
  • 延命以外の治療目標がしばしば重要となる。個人や家族の希望に沿うことが求められるため、日ごろからの緩和医療・終末期への準備が必須である。



高齢心不全患者の治療に関するステートメント策定委員(50音順)

安達 仁         群馬県立心臓血管センター心臓リハビリテーション部

安斉俊久         国立循環器病研究センター心臓血管内科部門

猪又孝元         北里大学北里研究所病院循環器内科

木原康樹(委員長)   広島大学大学院医歯薬保健学研究院循環器内科学

佐藤幸人         兵庫県立尼崎総合医療センター循環器内科

清野精彦         日本医科大学千葉北総病院循環器内科

筒井裕之         九州大学大学院医科学研究院循環器内科学

原田和昌         東京都健康長寿医療センター循環器内科

福本義弘         久留米大学医学部心臓・血管内科

増山 理         兵庫医科大学循環器内科・冠疾患内科

百村伸一         自治医科大学附属さいたま医療センター循環器科

弓野 大         ゆみのハートクリニック

横山広行         横山内科循環器科医院

吉川 勉         榊原記念病院循環器内科



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