Clinical Question:グリーフケアとスタッフのモチベーション

YUMINO education program2026年05月01日

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グリーフとは

"グリーフ"とは深い悲しみ・悲嘆・苦悩を示す言葉です。自分にとって大切な人や物、事柄を失うことで起こるもので、何らかの喪失によってグリーフを感じることはごく自然なことです。最も大きな喪失は家族やかけがえのない人との死別であり、特に災害・事件・事故・自死など予期せぬ形での死別は大きなグリーフとなる可能性があります。

1999年にWHOは健康の定義に身体・精神・社会に加えてスピリチュアルの領域を提案しました。グリーフケアとは、このスピリチュアルの領域において様々な喪失を体験しグリーフを抱えた方々に寄り添い、ありのままに受け入れて、立ち直り・自立・成長・希望を持てるよう支援することとされています。

ナラティブアプローチと傾聴

グリーフケアにおいて重要なのがナラティブアプローチです。相談者が自身の経験を物語として語ることを促し、その物語に耳を傾け、対話を通じて問題の本質を明らかにし、新たな解決策や意味を見出していく支援手法です。支援者は専門家ではなく伴走者として、対等な立場で共同作業を行います。

医療従事者として陥りやすい状態として、専門的立場からのアドバイスをしてしまうこと、「私も」と自分の経験を語り始めて相手の語りを奪ってしまうこと、常に患者さんの言葉をアセスメントしてジャッジしながら聞いてしまうことが挙げられます。傾聴とは相手が安心・安全に語れる場所と時間を作ることであり、語り手は聞き手に非常に敏感で、聞いてもらえていないと感じた時に語ることを諦めてしまいます。グリーフケアは「自分自身の器を使って行うケア」であり、専門知識で分かったようにならず、一般化したモデルを用意せず、個別性の新鮮さに驚き耳をそば立て、目を見張る姿勢が求められます。

コンパッションと崖縁に立つ私たち

コンパッションとは、人が生まれつき持つ、自分や相手を深く理解し役に立ちたいという純粋な思いのことです。コンパッションを形成する資質として、共感・関与・利他性・誠実・敬意の5つが挙げられます。私たちはこの5つの資質を持ちながら、常に崖縁に立ってケアをしていると表現されます。崖縁は視界が広く遠くまで見渡せますが、一歩間違えると崖の下に落ちてしまう危うさがあります。5つの資質が行き過ぎてしまうと、次のようなことが発生します。

共感しすぎると共感疲労が、関与しすぎると燃え尽きが起こります。利他性が過剰になると承認欲求や相手の依存させることにつながり、誠実を越えると道徳的苦悩として自分の道徳観に反する行為に関わることの葛藤や苦しみが生じ、敬意を越えると自分と異なる価値観の相手を否定・軽蔑することにつながります。今自分がどの位置にいるかを定期的に振り返ることが必要です。崖から落ちそうになったら助けを求めること、落ちても救助を求めれば助かること、そして仲間が落ちそうな時には声をかける、そういった環境づくりも大切です。

スタッフ自身のグリーフケア

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私たちは患者さんだけでなく、自分自身や一緒に働くスタッフへのグリーフケアにも心配りをしていく必要があります。荷下ろし(デブリーフィング)として、チーム全体での話し合いやメンバー同士の対話、支えると支えられるの循環が大切です。自分自身の悲嘆反応のパターンを知ることも重要で、気持ちを吐露することで楽になる方もいれば、論理的に理解することで楽になる方もいます。自分に合ったグリーフケアの方法を見つけることと、お互いに目配りし合うことが求められます。

ネガティブケイパビリティ

ネガティブケイパビリティとは、直ちに答えや解決法が出ない状況を受け入れ、何とか持ちこたえていく能力のことです(帚木蓬生先生)。私たちの脳は分からないものがあると不安になり、すぐに枠にはめて理解しようとしますが、それをしてしまうとマニュアル通りの思考停止となってしまい、低い理解度のままになってしまいます。この状態で未解決のまま試行錯誤することで、より高次元の理解に到達することができると言われています。思考の流れを止めずにいると、経験はよい記憶として再形成されていくとされています。記憶・理解・欲望を一旦脇に置いてありのまま俯瞰するゼロベース思考が、傾聴の質を支えるとされています。グリーフケアは答えのない苦しみに向き合うケアであり、早急に答えを出そうとすることが障壁になることがあります。

おわりに

湧き上がってくる感情に善悪はありません。その感情から生じる行動の結果として善悪が生じます。グリーフケアに関わる私たちが、自分自身の感情にも向き合いながら、チームとして支え合える環境を作っていき、絶えず目を見張り、耳をそばだてる姿勢を持つことが重要だと考えます。



ゆみのハートクリニック渋谷
赤尾 いづみ

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