Clinical Question:心不全患者における運動耐容能低下について
Omecamtiv mecarbil(ミオシンを活性化する低分子化合物)は、左室駆出率(LVEF)の低下した慢性心不全(HFrEF)患者において、選択的に心筋サルコメアを増加させることで心筋の収縮能を改善する作用を有するといわれています。これまでのomecamtiv mecarbilに関する試験では、同薬のHFrEF患者における心機能改善効果や心不全イベントおよび心血管死の複合リスクの低減効果などが以前に報告されていました。
今年7月のJAMAからOmecamtiv MecarbilがHFrEF患者に対して運動耐容能を改善させるかについて検討した試験の結果が報告されました(図、文献①)。
結論は、Omecamtiv Mecarbilを投与しても、HFrEF患者の運動耐容能改善効果は認められなかったということでした。心不全によって低下した運動耐容能に対しては、心機能を改善させることによって運動耐容能が改善していくと考えられがちですが、そうではありません。心不全患者において運動耐容能を規定しているのは、心機能だけではではなく、骨格筋の働きが重要であるからです。
普段の日常診療では、①左室収縮能が著明に低下しているにも関わらず、日常生活レベルの動作や労作時に息切れ等の自覚症状を全く認めない人という方がいらっしゃいます。その一方で、②左室収縮能が保たれているにも関わらず、日常生活レベルの動作や労作時に息切れ等の自覚症状が強い人という方もおられます。
一見矛盾しているように思いますが、少なくとも運動耐容能に関しては、これまでの多くの研究によって、運動耐容能と左室駆出率とは相関しないということが示されています。
この理由については、心不全患者の運動耐容能を規定する因子について考える必要があります。これまで多くの研究者が運動耐容能規定因子についてreviewされています。
心不全患者の運動耐容能を規定する因子としては、心臓、肺、骨格筋、その他の4つが挙げられます(文献②)。そして、心不全患者に骨格筋異常は運動耐容能の最も重要な規定因子と言われています。したがって、心不全患者の運動耐容能低下に対しては、心不全治療のみでは不十分で骨格筋異常への介入が不可欠ということになります。そのため、心不全患者に対しては運動療法(ここでは触れていませんが、有酸素運動、低強度レジスタンストレーニングなど)で骨格筋異常を改善させることが重要ということになります。
文献
① JAMA. 2022; 328: 259-269.
② J Am Coll Cardiol. 2019; 73: 2209-2225.
のぞみハートクリニック
岡田健一郎