ガーナで見つめた日本の医療の未来。 在宅での心エコー検査の 有用性を広めていきたい。

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M. W.
臨床検査技師
外来診療/訪問診療
2019年入職
大学病院で5年間勤務した後、青年海外協力隊を経て、現職へ

外来での検査業務のほか、訪問心エコーを担当。入職前は、青年海外協力隊として、ガーナに2年間滞在。過酷な日々の中で、自らの使命や日本の医療の未来について自問自答し、「訪問診療であれば、もっと患者さんに寄り添えるのではないか」と考え、帰国後に現職へ。

過酷だったガーナでの青年海外協力隊の日々。
日本に帰って自分にできることは何かと考えた。

学生時代の私は医療を勉強すればするほど、「日本は十分に満たされているから、もっと医療の充足が必要な場所へ行きたい」という想いを強めていました。ですが、卒業後すぐには海外に渡ることができなかったため、まずは国内で経験を積むことにしました。大学病院では実に多くの、様々な症例の患者さんを担当させていただきましたが、自分のキャパシティーを超える検査件数をこなし続ける日々に心が疲れていた頃、患者さんを「検体」として見てしまっている自分に気が付きました。自分の中で、ここまでは勤めると決めていた5年が経ったこともあり、原点に戻ろうと、意を決して青年海外協力隊に志願しました。

単身で渡ったガーナの2年間では、あらゆることを経験しました。1万5千人に対して医師1名という過酷な状況の中で、「何時にここに行きます」と伝えたのに、誰も集まってくれず、せっかくのワクチンを無駄にしてしまったこともあります。停電や断水から、バケツ1杯の水で1日を過ごすのも日常茶飯事でした。そんな中、楽しさを感じていた一つが「往診」です。人々は通院するお金がないため、医者が出向く往診が一般的でした。塩分を控えないといけない患者さんのお宅を訪問してみると、冷蔵庫が使えず、食べ物を塩漬けにして保存しているという暮らしの実態を目の当たりにし、在宅医療に興味を持つきっかけになりました。そして、毎晩仕事が終わると、月明かりのもとで、「もしかしたら日本の医療もまだ行き届かないことがあるのではないか、そのためにできることはないか」と、自分を見つめ直す日々でした。帰国後、ガーナでの往診の経験から、訪問診療に取り組んでいるYUMINOへの入職を決めました。

アウェイの空間での1対1の訪問検査は、
全くマニュアル通りにはいかない。

外来診療では、心電図、呼吸機能、FeNoなどの検査一般を行っています。訪問診療では週2日の診療日に、1件30分ずつ、心臓、腹部、下肢血管など、全身のエコー検査を行っています。当院では睡眠時無呼吸症候群に対する検査やCPAP治療に力をいれており、外来だけでなく在宅においてもマスクのフィッティングやCPAPデータ解析を定期的に行っています。

通常、検査技師はマニュアルを遵守しますが、訪問先は私たちにとって「ホーム」ではなく「アウェイ」なので、全くマニュアル通りにはいきません。玄関までお迎えに来てくれた患者さんが息切れしてしまい、サチュレーションをつけながら検査を行うこともありますし、検査がお好きではない方に「あと5分で終わるから頑張りましょう」と声を掛け続けながら検査をすることもあります。訪問先にはドライバーさんと向かいますが、検査は基本的には1人で行うので、患者さんの症状や独居などの生活スタイル、キャラクターやご家庭のことなど、YUMINOの他職種のスタッフからの事前情報がとても役立ちます。先日も、初めての患者さんについて、ソーシャルワーカーから右耳が聞こえづらい方だと聞いていたので、左側から話しかけてスムーズに検査を行うことができました。

訪問エコーは保険適用外。
臨床事例を伝えて、医療に変化を起こしていきたい。

現在の日本の医療では臨床検査技師の訪問診療は保険適用外ですが、YUMINOでは検査の有用性が高いと判断し、費用を負担することによって実施することができています。実際、エコーの結果を見ることで、投薬の調整を行ったり、リハビリをどこまで行うかの調整ができたり、疑わしく感じた症状の裏付けが出来るなど、エコー検査は訪問診療を確かなものにするために必要な要素となっています。超音波なので副作用も痛みも一切なく、何回行っても人体に影響がないことも利点です。

コロナ禍において、医療に変化が求められる中で、在宅医療に大きな可能性を感じています。加齢や疾病のために通院が困難な患者さんにとって、在宅で検査が出来るようになることはこれからの医療に必要な側面だと思います。現在、「訪問エコー」が保険適用内になるよう、訪問診療のコメディカルやチーム医療という側面から色々な立場の方が働きかけてくれています。私自身も今後、在宅医療学会などで積極的に学会発表を行って、有用性を伝えていきたいです。